造形物を3Dプリンターで作るとき、支えとなる「サポート材」が必要になる場合があります。複雑な形を安定してプリントするためには欠かせませんが、後処理で手間やコストがかかることが多いのも事実です。そこで注目されているのが、水に溶ける性質をもった「水溶性サポート材」です。本記事では、その基本から導入のメリットまで、わかりやすく解説します。
水溶性サポート材は「PVA」と呼ばれる素材が代表的です。これはポリビニルアルコールの略で、水に溶ける性質をもつ樹脂の一種です。一般的なサポート材は工具を使って手作業で外しますが、水溶性サポート材なら文字どおり水に浸けるだけで除去できます。そのため手の届かない部分にもサポートを配置でき、複雑な形状のプリントを容易に実現しやすくなるのが特長です。
最大の理由は「高い仕上がり精度と作業効率の両立」です。従来のサポート材は細かな部分の除去が難しく、誤って造形物を傷つけるリスクもありました。一方、水溶性サポート材なら、手作業で外しづらい内部構造や隙間のサポート材をスムーズに取り除けます。また、工具を使う必要がほとんどないため、熟練の職人ではなくても扱いやすいという点も大きなメリットです。
筒の内側など、人の手や工具が入り込みにくい箇所のサポート材除去が容易になります。水に溶けるという特性のおかげで、形状を崩さずに綺麗に仕上げられます。
ミニチュアやアクセサリーなど、細部にわたる再現性が求められる場合に最適です。乾式サポート材を無理に剥がすと破損しがちな造形物も、水溶性なら安全に仕上げられます。
立体的に入り組んだパーツを一度に造形したいとき、水溶性サポート材が威力を発揮します。溶解により隙間までしっかりサポート材を除去できるので、後処理の難易度が大幅に下がります。
水に浸けるだけで、複雑な形状のサポート材もキレイに除去できます。
実際にどのように変化するのか、下記の比較動画をご覧ください。
除去前 → 除去後の比較(サポート材の溶解例)
水溶性サポート材を正しく扱うためのポイントは、ノズル温度やベッド温度、そして保管方法に集約されます。PVAは湿度を吸収しやすいため、開封後は密閉容器に乾燥剤と一緒に入れておくと品質を保ちやすくなります。また、プリント中に温度設定を誤ると糸引きや定着不良が起きるため、事前のテストプリントが重要です。正しく使えば、除去の手間を大きく省けるのは大きな魅力です。
水に浸けるだけ、手で大まかに外すことも可能。
その工程を映した動画で、どれほど簡単に除去できるかご確認ください。
除去プロセス動画(水中で溶けていく様子+手作業除去)
3Dプリンタにおいて、初めて本格的に水溶性サポート材を実用化したのが「アジリスタ」です。
急ぎのときは、ある程度まで手作業で取り外し、残ったサポート材を水に浸けて溶かすことで効率的に仕上げられます。
水溶性サポート材を使用する前提で開発された樹脂を採用。仕上がりが歪みにくく、安定した精度を実現します。
サポート材と造形物の色が異なるため、どの部分が外す対象なのかが一目で分かります。
アジリスタを導入した企業の声として、「水につけられる造形物を作りたかった」「複雑形状を短時間で仕上げられて生産性が上がった」など、多くの事例が報告されています。特に、水槽実験など水が不可欠なプロジェクトでは、従来機では不可能だった用途を実現したという好事例もみられます。
水溶性サポート材は、複雑な構造を自在に造形できる強力な味方です。工具が入り込めない場所のサポートも簡単に除去できるため、仕上がり精度と設計の幅が格段に広がります。
課題としては湿度管理や材料費などが挙げられますが、適切なプリント設定と保管方法を守れば、優れた成果を得られるでしょう。「アジリスタ」のように水溶性サポート材を前提に設計された3Dプリンタであれば、一層高い品質と使いやすさを手にできます。
もし次の一手として3Dプリンタの導入や造形プロセスの効率化を検討されているなら、ぜひ水溶性サポート材を選択肢に加えてみてください。