産業用(業務用)3Dプリンターの利用が広がる製造現場では、フィラメントの選択が造形品質や製品性能を大きく左右します。材質ごとに耐熱性、強度、柔軟性、加工性など特性が異なるため、用途や製品仕様に応じた適切なフィラメントを選ぶことが重要です。この記事では、代表的なフィラメントの種類や特徴、製造業での選定ポイントを詳しく解説します。
フィラメントは、産業用(業務用)3Dプリンターの熱溶解積層法(FDM/FFF方式)で使用される、細長い熱可塑性樹脂材料のことを指します。加熱することで柔らかくなり、プリント後に冷却すると固まる性質を持つので、積層して立体物を作ることができます。一般的には直径1.75mmと2.85mmの2種類が主流で、スプール状に巻かれてプリンターに供給されます。素材や直径を選ぶことで、造形物の強度や仕上がり、加工のしやすさが変わるため、目的に応じたフィラメントの選定が重要です。
3Dプリンター用フィラメントには、用途や造形物の目的に応じてさまざまな種類があります。それぞれの素材は強度、耐熱性、柔軟性、仕上がりの美しさなど特性が異なり、PLAやABS、PETG、PCといった代表的なフィラメントから、HIPSやナイロン、導電性・耐熱強化フィラメントなどの特殊素材まで多岐にわたります。ここでは各フィラメントの特徴や適した用途を解説します。
PLAは植物由来の環境にやさしい素材で、持続可能な材料として注目されています。印刷温度は約200℃と低めで扱いやすく、造形物は硬く丈夫ですが、高温環境には弱い特徴があります。屋外や高温になる場所での使用には向きません。一方で、造形の安定性が高く、反りや変形が少ないため、試作やデザインモデルの制作に最適です。初めての3Dプリントや短納期のプロトタイプ作成でも活躍する汎用性の高いフィラメントです。
ABSは高い強度と耐熱性、耐衝撃性を持つフィラメントで、機能部品や耐久性が求められる造形物に適しています。印刷温度は250℃前後とやや高めで、冷却時の収縮による反りが発生しやすいため、加熱ベッドや囲い付きプリンターの使用が推奨されます。また、印刷後にアセトン処理を施すことで表面を滑らかにし、美観を向上できます。実用性と仕上がりの両立が求められる場面で活躍します。
PETGはPLAとABSの長所を兼ね備えたバランス型のフィラメントで、強度と耐熱性に優れています。食品用コンテナなど、安全基準を満たす用途にも対応できます。造形時の反りや割れが少なく、比較的扱いやすいため、試作から量産向けのプロトタイプまで幅広く活用できます。また、透明性や光沢のある仕上がりが得られるので、見た目の美しさも重視されるデザインモデルにも適した素材です。
PCは耐熱性と耐衝撃性を誇るエンジニアリングプラスチックで、高機能部品の製造に最適なフィラメントです。印刷には約300℃と高温が必要です。反りや割れのリスクもあるので、扱いはやや難易度が高い素材です。しかし、耐久性と強度に優れるため、屋外使用の部品や構造部品にも採用されます。機能性を重視した造形物や、長期使用に耐えるパーツの制作に適したフィラメントです。
HIPS(耐衝撃性ポリスチレン)は、主に造形物のサポート材として活用され、ABSとの併用で複雑形状の造形を支えます。ナイロン(PA)は柔軟性と耐摩耗性に優れ、ギアやヒンジなど機能部品に適した素材です。また、近年は導電性フィラメントや耐熱性を強化したフィラメントなど、特定用途向けの特殊材料も増加していて、設計の自由度や機能性の向上に寄与しています。目的に応じた材料選択で、より高度な3Dプリントをおこなうことができます。
製造業で3Dプリントを活用する際のフィラメント選定で重要なのは、耐熱性と耐久性です。産業用(業務用)部品は高温環境や長期使用に耐える必要があり、ABS、PETG、PCなどの高性能素材が中心に選ばれます。
造形の安定性も重視すべきです。大型部品や量産試作では反りや割れが少なく、均一な造形が可能なフィラメントが望ましいです。
加工後の特性も重要で、表面仕上げや塗装のしやすさ、穴あけや切削などの機械的加工への対応も考慮します。加えて、コストと導入実績も十分に考慮してください。予算に応じて性能とコストのバランスを検討し、信頼性の高いメーカーや実績ある材質を選ぶことで、安定した製造プロセスを構築できます。
製造業における3Dプリンター活用では、フィラメントの選定が製品の品質や生産効率に直結します。用途に応じて耐熱性、強度、柔軟性、加工性などの特性を考慮して、最適な材質を選ぶことが成功の鍵です。ABSやPETG、PCなどの高性能素材は機能部品や耐久部品に適し、PLAはデザインモデルや試作に向きます。専門メーカーや販売代理店と連携し、試作から量産まで各フェーズに応じたフィラメントを導入することで、安定した造形と高品質な製品を製造できます。
外注待ちの長さ、ブレによるスピードの上げづらさ、大型・耐熱部品の作りにくさは、現場の生産性を下げます。 産業用(業務用)3Dプリンターを選ぶ際には、各課題解決に適した機能特徴を持つ製品を選ぶようにするとよいでしょう。ここでは、主な製造現場の課題別に、おすすめの製品を紹介します。


